1. Home
  2. ブログ

    AIによるIoTの革新的イノベーション

AIによるIoTの革新的イノベーション Nordic Semiconductor January 23, 2025

機械学習を取り入れることで、エッジデバイスは単にデータをチェックするだけでなく、変化の意味を推測し、それに対して行動を起こせるようになります。今日のIoT接続デバイスの多くはエッジ

特集: AIとML

概要

機械学習を取り入れることで、エッジデバイスは単にデータをチェックするだけでなく、変化の意味を推測し、それに対して行動を起こせるようになります。今日のIoT接続デバイスの多くはエッジ コンピューティングを実行できますが、最新のMLモデルを実行するにはリソースが不足しています。解決策はTinyMLです。エンジニアリング上の困難な課題にも関わらず、民生市場には既にMLを採用したIoT製品が導入されています。

AIによるIoTの革新的イノベーション

AIをIoTに組み込むことで、その能力と柔軟性は飛躍的に向上します。ただし、エンジニアリング上の大きな課題を克服する必要があります。

1956年、Allen Newell、Cliff Shaw、Herbert Simonはコンピューター プログラム『The Logic Theorist』を開発しました。RAND Corporationが出資したこのプログラムは、人間の問題解決能力の模倣を意図しており、一般的に人工知能(AI)の最初の例と考えられています。

今日、AIの代表的応用は大規模言語モデル(LLM)です。LLMとは、集中的な学習過程でテキストから統計的関係を学習することで汎用的な言語生成やその他の自然言語処理タスクを実現する演算アルゴリズムです。OpenAIのChatGPTが最も有名な例でしょう。

便利ではありますが、AIの応用としてはLLMはニッチなものです。

自動システムによって収集された膨大なデータを機械学習(ML)アルゴリズムに供給すると、エキサイティングな結果が得られます。MLはAIの応用のひとつであり、コンピュータが直接的なプログラミングや命令を受けずに学習することを可能にするものです。これにより、機械のインテリジェンスを継続的に向上させることができます。

また、IoTにより事実上無制限のデータ量を収集できる、グローバルな相互接続ネットワークが実現しました。そのデータはクラウド上のコンピュータに供給されるだけでなく、IoTを構成する何十億台もの接続デバイスのインテリジェンスを高めるMLアルゴリズムにも使われます。つまり、最も素朴なIoTデバイスでさえ継続的にインテリジェントになる可能性があり、産業、商業、教育、医療等の未来に大きな可能性を提供します。

例えば、冷蔵庫について考えてみましょう。世界中に何十億台も存在し、世界の電力の12%を消費しています。庫内外の温度データ、庫内に保存されている食品の量、扉を開ける頻度、さらに電力網の負荷が低い時間帯等の高度なデータを常にMLモデルに供給することで、冷蔵庫コンプレッサーのスマートコントローラは使用パターンに迅速に適応することができ、使用電力量と二酸化炭素排出量を大きく削減できます。まさにバラ色の未来です。ここでの課題は、ハードウェアとソフトウェアを統合して全てをシームレスに動作させることです。

「Nordicの効率的なSoCとSiPは、アクセラレータを使わず最適化の力だけで先進のMLが実現できることを実証しています」

エッジへ

1999年、Kevin Ashtonが「Internet of Things」という言葉を作ったとき、彼の頭にあったネットワークは今日のIoTとは異なるものでした。Ashtonは、何十億もの安価で小型のセンサーがデータを中央の強力なコンピュータに送信し、そこで集約的に演算が行われることを想定していました。Ashtonの予測には先見の明がありましたが、欠点がありました。多数の機器から継続的にネットワーク経由でデータを送信するのは複雑で、多くの電力を使用し、非常にコストがかかるのです。

今日では、IoTのインテリジェンスをエッジに分散することで、ネットワークのトラフィックを最小限に抑えています。これが可能なのは、クラウド コンピュータに比べて控えめとはいえ、今日のIoTデバイスが専用のアプリケーション プロセッサと十分なメモリリソースを備えた製品に成熟したためです。

これによってIoTは、個々のデバイスが強力なエッジ処理を行えるため、広範な分散コンピューティング リソースをサポートできるようになりました。

最も基本的なレベルでは、エッジでIoTデバイスがローカルデータを選別し、どれが通常で、どれが変化を示しているか判断し、詳細な分析のために後者の転送を決定します。MLを加えることで、エッジデバイスは、あらかじめ設定されたしきい値を超えたかデータを確認するだけでなく、「その変化の意味」を推測し、それに対応できるようになります。

「Nordicセミコンダクターではこの新機能を「エッジAI」と呼んでおり、IoT製品に重要な利点をもたらすものです」と、IoT向け無線ソリューションの世界的プロバイダーである同社のEVP戦略・製品管理担当のKjetil Holstad氏は述べています。「入力はローカルでリアルタイム処理できるため、無線接続で生データを送信して帯域幅を消費する必要はなく、クラウドからの応答を待機する無駄な時間も生じません。また、ローカルでの処理は無線でデータを送信するよりも電力を消費しないため、IoTデバイスの動作時間延長またはバッテリーの小型化が可能です。

「最後に、最も重要なことは、エッジAIをデバイスに追加することで、Nordicのお客様は競合製品と差別化できる、革新的な新機能を追加できるということです」とHolstad氏は述べています。

このような機能の一例として、機械のベアリングを監視する温度センサーがあります。このセンサーはMLモデルを使って、ベアリング温度の緩慢な上昇は単に機械の暖機を意味し、心配することではないと推測します。しかし、ベアリング温度が急峻な上昇を示した場合、潤滑不良の可能性があり、損傷を防ぐためにセンサーが機械をシャットダウンさせます。

コンサルタントのデロイト社は、予測保全ポジショニング ペーパーで、「データは予知保全エンジンの燃料であり、その質と量は、根本原因を分析し、故障を予測するための制限要因です」と述べています。

IoTは正確なデータを大量に提供し、エッジAIとともに予知保全市場に巨大な経済的ポテンシャルをもたらします。

デロイト社によれば、計画外の設備ダウンタイムは、製造業者に毎年推定500億ドルの損害を与えています。同社によれば、予知保全を導入することで材料費は年間平均5~10%節約でき、設備のアップタイムは10~20%向上し、総保全費用は5~10%削減でき、保全計画にかかる時間は20~50%短縮できます。

nRF54H20

技術チェック

nRF54H20は複数のArm Cortex-M33、RISC-Vコプロセッサ、大容量フラッシュ、RAMを実装しています。本SoC上で実行されるEdge ImpulseのTinyMLソフトウェアにより、高度なMLモデルを実行できます。

数字で見る

  • 1,170億ドル 2027年の機械学習の世界市場

    出典: AI Multiple Research

  • 25億ドル 2030年のTiny MLの出荷額

    出典: ABI Research

  • 10% AIによる米国の年間医療費の節約(約3,600億ドル)

    出典: National Bureau of Economic Research

エンジニアリングにおける課題

AIとMLによるIoTの強化には利益が大きいのですが、この技術を大規模に実装するには大きな課題があります。

今日の先進的なMLモデルの多くは、推論(MLモデルを実行し、データ入力に基づいて意思決定を行うこと)を実行するために、多くのコンピューティング リソースと電力を必要とします。しかし、今日のIoT接続デバイスのほとんどは、ある程度エッジコンピューティングが可能でも、そのようなリソースは備えていません。

その解決策が、Tiny Machine Learning (TinyML、TinyML財団の商標)です。

TinyMLは、マイコンベースのバッテリー駆動型組み込みデバイス向けに技術を適合させたMLです。TinyMLを使うと、小型のIoTセンサーでもリアルタイムMLタスクが実行できます。

TinyMLによって今日の無線SoCはMLをサポートできるようになりましたが、将来の新世代ハードウェアは、はるかに高度なMLルーチンを実行できるようになるでしょう。Nordicセミコンダクターは、このハードウェアの開発に数百万ドルの研究費を投資しました。

「専用のMLアクセラレータを使わずに、最適化された方法でMLを実行できる低消費電力SoCを設計しました」とNordicセミコンダクターのHolstad氏は述べています。「重要なのは革新的なエンジニアリング、最大限のデータ処理、最小限の電力消費を兼ね備えることです。

「IoTにおけるAIとMLが進化するにつれ、要求されるものも変化していくでしょう。それにより、将来には超低消費電力組み込みデバイスがML専用アクセラレータコアを実装するかもしれません。しかし現状では、弊社の高効率SoCおよびSiPならアクセラレータなしでも、最適化だけで先進のMLが可能であることを実証しています。」

例えば、NordicのデュアルコアnRF5340や、新しい第5世代無線SoCであるnRF54H20等が良い例です。これらのSoC上で、Edge Impulse社のTinyML ソフトウェアが実行されます。

「nRF53、そして現在ではnRF54シリーズでNordicは処理能力と電力消費のトレードオフを解消することに成功しました」とHolstadは述べています。「つまり、バッテリー駆動のSoCで先進のMLをサポートするために必要な高い処理能力と低い電力消費を、開発者は容易に利用できるのです。またNordicは、開発者がMLプロジェクトを始めるにあたって必要な全ての開発ツールとソフトウェアも提供しています。」

「製品にエッジAIを追加することで、競合製品と差別化できる新しく革新的な機能を追加できます。」

AI and IoT

AIの現状

AIも間違える

企業はさまざまな分野でビジネスを強化するためにAIを活用しており(グラフ参照)、その成果には目を見張るものがあります。しかし上手く行かないこともあるため、注意が必要です。CIO誌が報じたように、Cambridge大学のCOVID-19リスク検出プログラムは、横になっている患者と立ち上がっている患者のスキャンを含むデータセットでトレーニングされました。前者は病気である可能性が高く、そのためアルゴリズムはスキャン中の姿勢だけに基づいてCOVIDのリスクが高いと同定してしまいました。別のヘルスプログラムは、健康な子供の胸部スキャンを含むデータセットでトレーニングされました。そのアルゴリズムが学習したのは、高リスク患者というよりも子供を識別することでした。

収益性を高めるため、企業がAIを利用している方法

  • 56% 業務
  • 51% サイバーセキュリティと不正の管理
  • 40% 在庫管理
  • 30% サプライチェーンの運用
  • 26% 採用と人材発掘

MLの活躍

エンジニアリング面における厳しい課題にも関わらず、開発者は既にMLを実装したIoT製品を商業セクターに導入しています。その一例がノルウェー企業のSensorita社です。同社は、NordicのnRF9160 SiPセルラーIoT製品を採用した、スマート廃棄物管理ソリューションを発表しました。Sensorita社のデバイスは、ノルウェー生命科学大学の研究に基づくレーダー技術を使用しており、大型廃棄物容器内の廃棄物の量と内訳を評価します。

「顧客は廃棄物容器を移動したり、取り決めとは異なる物を廃棄したりするため、廃棄物処理会社は容器内の廃棄物の量とその内訳、回収時期を把握できません」とSensorita社CEO、Ulrikke Lien氏は言います。「これはロジスティクスと生産計画に問題を生じさせます。不必要な回収作業によるCO2排出の増加は言うまでもありません。」

Sensorita社は、レーダーとGPSを組み込んだ堅牢なセンサーでこの問題に対処しました。センサーは容器内のレーダー画像を1時間に数回撮影します。これらの画像はSensorita社のクラウドプラットフォームに送られ分析されます。何百万枚ものレーダー画像から学習したMLアルゴリズムを使うことで、センサーは容器内の廃棄物の量と、主な廃棄物の種類を推定できます。

nRF9160 SiPは、セルラーネットワークの位置情報とGNSSトリレーションを使って容器の正確な位置を記録し、LTE-M/NB-IoTモデムでSensorita社のクラウドプラットフォームにデータを送信します。

Sensorita社はまた、廃棄物を回収するために街を走るトラックが取るべきルートを最適化するためにMLを使用しています。その結果、燃料の節約、労働時間の削減、二酸化炭素排出量の削減を実現しました。

AI and IoT

より効率的な冷蔵庫、予知保全、ゴミ箱の最適化等は重要ですが、ニッチなものです。

MLがネットワークに広く展開されると、その結果は劇的なものとなるでしょう。その一例は医療への影響です。

NordicのnRF54H20等の無線SoCは、心拍数、心拍の変動、体温、呼吸数、血中酸素濃度、ストレス、疲労等の各種バイタルサインに対するセンサーを備えたウェアラブル デバイスをサポートします。このようなウェアラブル デバイスは、フィットネス愛好家だけのものではなく、高齢者、大人、子供にも着用されるようになるでしょう。

MLとセルラーIoT接続を採用したウェアラブル デバイスは、各種バイタルサインを同時に常時監視できるデバイスとなります。そして、一部または全てが変化の兆候を示した場合、ウェアラブル デバイスのMLモデルは、その変化が正常範囲内か、深刻な医療緊急事態なのかを判断できます。例えば、血中酸素濃度、心拍数、血圧、呼吸数が急激に変化したら、心臓に問題が発生しつつあることを示しているでしょう。事態が深刻な場合、ウェアラブル デバイスは救急隊に通知を送り、到着前にバイタルデータを提供できます。

このようなデバイスは、本当に必要な医療行為を最適化する一方で、不要な医療行為を減らすことで、ますます厳しくなる医療予算の有効活用を支援できます。これは世界中で数千億ドルの節約となるでしょう。

バッテリー駆動の低消費電力組み込みデバイスでMLを実行できれば、IoTは一変するでしょう。

ネットワークはさらにインテリジェントになり、できることが広がり、柔軟になるでしょう。そして、従来は不可能だった新しいタイプの製品やアプリケーションが可能になります。それはエキサイティングな未来であり、想像以上に近いものです。

Sensorita社のスマート廃棄物管理ソリューションは、レーダー、GPS、MLを使って街中の廃棄物容器からの回収を最適化します。

Sensorita nRF9160

知っておくべきこと

1950年、イギリスの数学者Alan Turingは、入力された情報から学習し、人工的に知能を獲得する「学習機械」を提案しました。1959年、アメリカのエンジニア、Arthur Lee Samuelが「機械学習」という言葉を生み出しました。

彼のチェッカー プログラムは、世界初の自己学習アルゴリズムのひとつです。

Nordic Inside:

バッテリー駆動センサー向けの機械学習

AI Thingy:53

Nordicの新しいnRF54H20 SoCは、複数のArm Cortex-M33プロセッサとRISC-Vコプロセッサを実装しており、各プロセッサは特定のワークロード向けに最適化されています。

本SoCの演算リソースは、内蔵の大容量フラッシュとRAMによってサポートされています。これらのリソースにより、nRF54H20は(nRF5340などNordicの他のマルチプロトコルSoC同様)TinyMLソフトウェアをサポートできます。

TinyMLは、小型でバッテリー駆動のセンサーに適した、合理化された形態の機械学習(ML)であり、NordicのデザインパートナーであるEdge Impulseが提供するものです。NordicはEdge Impulseと共同で開発したアプリを提供しています。NordicのIoT試作プラットフォームであるThingy:53で組み込みMLモデルの学習と展開に使用できます。このアプリを使うと、センサーからの生データをクラウドベースのEdge Impulse Studioにアップロードし、学習させたMLモデルをBluetooth LE経由でNordic Thingy:53に展開できます。

これにより、NordicのnRF52840 SoCを採用したAtomation Atomのようなセンサーを開発できます。このセンサーは、振動を測定して機械のモーターが昨日より振動していないか判断したり、機械の運転中にベアリングの温度を監視して通常より上昇していないかチェックしたりすることができます。Atomは、3.6 Vのリチウムイオンバッテリーで最長3年間動作できます。本センサーは、中央システムにデータをストリーミングするのではなく、ローカルで監視し情報を処理します。

AI Automation IoT

しきい値を超えたり、機器が正常なパラメーターのレンジから外れたりすると、Bluetooth LE接続経由でゲートウェイにデータが送信されます。

Issue 1 2024 WQ 15

Nordicニュースレターをご購読ください

NordicとIoTの最新情報をお送りします

購読する