WHO(世界保健機関)によれば、30歳から79歳までの推定12億8,000万人が高血圧症を患っており、世界中で早死の大きな原因となっています[1]。WHOは、2030年までに高血圧症を33%減少させるという目標を掲げています。
高血圧症を発見する唯一の方法は、定期的に血圧を測定することです。そのため、多くの人は何か大きな病気にかかるまで、自分が高血圧症であることに気付きません。先進のウェアラブルデバイスを使えば、わざわざ病院に通ったり、かさばる家庭用血圧計と格闘したりすることなく、24時間血圧をモニタリングできます。
詳しく: 最先端の無線ソリューションによる心臓の健康モニタリングの改善
無線時代の高血圧症管理
今日、寸法やリソースに制約のあるデバイスでも様々な技術が利用可能となりました。これにより、手首または指に装着するウェアラブル デバイスでも、正確で信頼性の高い血圧測定が実行できます。さらに、装着者の最大酸素摂取量(VO2 max)、血中酸素飽和度(SpO2)、体温、心拍数、心拍変動(HRV)、睡眠データ等、他の多くの心血管健康マーカーも収集可能です。
能動的な介入が可能となるだけでなく、今日のウェアラブル デバイスはエッジでのML(機械学習)とセンサーフュージョンもサポートできます。大量のデータをスキャンすることで血圧に影響を与える各種要因を特定できるため、MLは高血圧の測定に有用です。そして、ただ高血圧というだけでなく、運動不足や睡眠時無呼吸症候群等、高血圧症の潜在的な原因を特定するための、ウェアラブル デバイスの精度を上げるアルゴリズムの開発に役立ちます。
一方、センサー フュージョンは、複数のセンサーからの別々のデータストリームを組み合わせてノイズを除去し、どのセンサーからのどのデータポイントが同じ健康上の懸念に対応し、どれがそうでないか判断することを可能にします。医師はリモートで患者をモニタリングし、必要に応じて改善措置を講じられるため、このデータは装着者にとって有用なだけでなく、主治医にとっても有用です。
詳しく: 主流になるAIと機械学習
エッジでのMLとセンサーフュージョン
エッジでMLとセンサーフュージョンを提供し、同時に多数の高負荷演算作業を実行し、センシティブな健康データのセキュリティを確保し、信頼性の高い無線接続を監督するため、今日の先進的なヘルス ウェアラブル デバイスの開発現場では、それらのデバイスを駆動する無線SoCに奇跡に近いものを求めています。
ウェアラブル デバイスは快適に常時装着できる必要があるため、重量と寸法も重要な点です。つまり、ウェアラブル デバイスのSoCは、MCU、無線モジュール、メモリ、セキュリティ モジュール等、多数のハードウェアを小型のパッケージに詰め込む必要があります。スマートリングの場合、8 mm × 3 mm以下にする必要があるでしょう。このような寸法上の制約は、ウェアラブル デバイスで採用できるバッテリの寸法、重量、容量の制限に直結します。その結果、設計において消費電力は常に重要な懸案事項であり、使用するSoCは超低消費電力であることが必要です。ウェアラブル デバイスを毎晩充電したいと思っている人などいません。
詳しく: 産業用IoTを変える機械学習
Nordicの次世代無線SoCが先進のウェアラブル デバイスを推し進める
チップメーカー各社は、今日のウェアラブル デバイスにおける厳しい制約に応えるため、これまで以上に高性能なSoCをより小さいパッケージでリリースしています。例えば、Nordic Semiconductorは先日nRF54Lシリーズを発表しました。このシリーズは、同等の先行製品であるnRF52840 SoCより50%小さい2.4 × 2.2 mmの超小型WLCSP品であり、同時に処理能力を2倍、処理効率を3倍に高め、電力消費を低減しています。
nRF54L15は1.5 MBの不揮発性メモリ(NVM)と256 KBのRAMというシリーズ最大のメモリ容量を実装しており、心拍モニタリング ウェアラブル デバイス等、要求の厳しいアプリケーションに最適です。大容量のメモリに加えて、nRF54Lシリーズは低消費電力RISC-Vコプロセッサを統合しており、外付け部品を追加することなく高度なアプリケーションの要件を満たし、BOMコストを削減できるため、設計を小型にすることが可能です。
詳しく: 次世代無線SoCで無限に広がるウェアラブル デバイスの可能性
nRF54Lシリーズが備える先進のセキュリティ
nRF54Lシリーズは、Arm TrustZoneによる分離、タンパーセンサー、強化された暗号アクセラレータ等の機能を統合しており、基本のものから高度なものまでセキュリティ要件を満たすように設計されています。
詳しく: IoTにおいてセキュリティが非常に重要な理由
もちろん、高血圧症の世界的な蔓延に取り組むにはスマート ウェアラブル デバイス以上のものが必要です。それでもウェアラブル デバイスは重要な役割を果たすでしょう。AHA(アメリカ心臓協会)による最新のガイドラインは、高血圧症の診断と管理において、それらデバイスの役割を強調しています。
次に重要な問題は、医師と患者の双方にとって、新しい技術をどのように臨床に取り入れるのが最良であるかということです。チップメーカーや開発者の弛まぬ努力により、ウェアラブル技術はますますユーザーフレンドリーで、信頼性が高く、正確で、柔軟なものとなり、最終的には高血圧症が引き起こす心血管疾患の予防に役立つようになるでしょう。
参考文献:
1. WHO(世界保健機関)高血圧症ファクトシート。WHO、2024年12月